悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
番外編◆思い出の青い花
あたしの名前はラナ・アマースト。今年二十二歳になったばかりだ。
あたしは今、街で両親の営んでいる花屋の手伝いをしている。といっても、十代の頃から店に出ていたため、今ではすっかり店の看板娘だ。
小さい頃から花を見て、触れてきた影響で、あたしは花が大好きだった。
いろんな色、形、香りが存在し、いつか枯れてしまう日がきても、咲いている姿は何人もの人を喜ばせる。
あたしの家は、裕福といえる家庭ではなかったかもしれない。でも、あたしは花屋の娘として生まれたことが誇りだった。
そして花に囲まれる生活は、毎日の景色がカラフルであたしにとって、とても幸せなものだった。
昔から花以外のものに興味を持ったことがなく、この年齢になっても恋人のひとりいたことがないあたしに、両親はたまに心配の言葉をかける。しかしまだ……、その期待に応えられる日がくるのは遠そうだ。
「すみません。目の前にある綺麗な花をいただけますか?」
ある日、いつものように店番をしていたときのこと。ひとりの若い男性が、あたしにそう尋ねてきた。
「はい。えーっと……どの花でしょう?」
「目の前の、綺麗な花です」
にっこりと笑うあたしよりずいぶん背の高いその男性は、白いシャツに茶色いベストを羽織り、細身のグレーのパンツを穿いていた。一つひとつの布地が高そうで、あたしは珍しいものを見るように思わず凝視してしまう。
それにこの人――今まで見てきたお客さんの中で、一番かっこいいかも。。
「……あっ、は、はい。えーっと、目の前っていうと、ガーベラですか? それともリシアンサス?」
いけない。あたしとしたことが、仕事中にうつつを抜かしてしまった。あたしは言われた花を手に取ろうとするが、目の前と言われても、たくさんの花が並んでいるのでどれを言っているのかわからず男性に聞き返す。