悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「ロイ、何て口を聞くの」
「はっ……すみません。ついカッとなってしまい」
「マリア。気を悪くしないで。彼はわたしの執事であり付き人のロイ。今回は私の護衛もかねて一緒に来たの」
ロイ……こいつのことも覚えている。
常にリリーにべったりな割に存在感は薄く、根暗っぽい緑髪執事。
執事服はよく似合ってるし、前髪で顔が見づらいけどまぁまぁ整った顔立ちをしていた気が――今は殺意に満ちた表情しか向けてこないから確認できないけど。
「マリアの付き人は? 連れて来てないの?」
「うーん。そうみたい」
「付き人がいないなんて余程大事にされていないのか――それとも一人じゃないといけない理由や何か目的があり付き人が邪魔だったのか」
「ロイ! 口を慎みなさい!」
……なるほど。ロイの言ってることは一理ある。
私としても、好き放題するにはそれを見張る付き人なんていたら邪魔で仕方ないからいなくてよかった。原作のマリアもきっと同じ理由ね。
「リリー、本当にごめんね。怪我しないでよかったわ……じゃあ」
私を警戒しているのか、その場から動こうとしないロイを見て埒が明かないと思った私は先に部屋へと戻ることにした。
――せっかくリリーが花を潰さないようにしたのに、できることなら先に二人が出て行って欲しかったのだけど。
後はまぁ、踏まないよう祈るしかないか。明日また無事か確認しに来よう。
無事だったらおばさんに報告してあげるんだ。ここに咲いてたよって。
「マリア、あんた……」
「ん?」
去って行く私に、おばさんが何か言いたげに声をかけてくる。
「――いや、何でもない。パーティー楽しむんだよ。気が向いたらまたいつでもここにおいで」
「もちろん! またね。おばさん」
にしし、と悪戯な笑みを浮かべ、私は花畑を後にした。