悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
テーブルの上に置かれた美味しそうなスープを飲みながらリリーの話を聞いていると、急に大広間がざわつき始める。
「きゃー! アル王子よ!」
黄色い歓声が沸き起こり、豪華で真っ赤な絨毯が敷かれたな階段の上から散々名前を聞かされた噂のアル王子が姿を現した。
白と青を基調としたこれぞ王子! といわんばかりの衣装を一つの違和感もなく着こなし、ゴールドのボタンと肩章が嫌味ったらしく輝いている。
長い脚が階段を一段降りる度に色素の薄いベージュのサラサラな髪がふわりと揺れ、その完璧な場所に完璧な大きさと形で配置された文句のつけようのないイケメンフェイスを令嬢達は頬を染めうっとりとした表情で眺める。
――確かに、この王子と結婚したいと思うのは普通の女としては当たり前の感情ね。
私は画面越しに見たことがあるアル王子だったけど、こうして実際見る方が何倍もかっこよく見える。
全ての階段を降り終わったアル王子は無言で室内全体を見渡した。
気づけば私以外の女の子は全員立ち上がっていて、私も慌てて立ち上がるとそんな私を見て隣のリリーはクスッと笑う。
「――みんな、この度は僕の為にここまで来てくれてありがとう。僕が今回ここへみんなを招待した、アルフレッド・オーズリーだ」
……声までかっこいいのは当たり前か。ゲームでもイケボだったもの。
「素敵な人と素敵な時間をこのお城で過ごせたらいいなと思ってる。それと同時に、ここへ来た人全員が素敵な思い出になるような時間を過ごせることが僕の望みだ」
言いながら、アル王子は私とリリーがいるテーブルの方を見てフッと微笑んだ。
――こいつ、リリー(素敵な人)との(素敵な)時間を独り占めする気だな……!
反吐が出そうな綺麗ごとを言うアル王子に、私は思わずムッとした。