悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「わかったならさっさと部屋に戻れ。食事が運ばれてくるまで大人しくしていろ」
「……ねえ、運ばなくていいから何かに包んで持って来てくれない?」
「……どういうつもりだ?」
「部屋で一人で食べても味気ないでしょ。この部屋に入るのがダメなだけならどこで食べようが勝手じゃない。大丈夫。変なことするつもりないから」
「信用ならないな」
「そんなことも許されないの? 出禁だけでなく部屋に閉じこもって待つことを強要するなんてここの使用人はやることが野蛮人なのね」
「――ハァ。包んで持ってくるよう言ってくる。それを受け取ったらすぐこの場から去れ。そして誰にも迷惑かけることなくどこかで勝手に楽しめばいい」
「あら。案外あっさりと引き下がるのね?」
「お前と話すと頭が痛い。無駄な会話をしたくないだけだ」
青髪は扉の先にいる使用人に私を絶対入れるなと伝えると、そのまま広間の奥へと消えて行った。
目の前の扉はバタンと閉められ、私はその場でランチが運ばれてくるのをしばし待つこととなった。
「おい、持ってきたぞ!」
思っていたよりずっと早く、私の元にランチボックスが届けられる。
持ってきたのは私より身長が少し低く、私より年下に見える青とは真逆で真っ赤な髪をした少年だった。
「……君、いくつ?」
小さいから口の利き方も知らないのだろうか。
初対面のお客様に「おい」って……
「ガキ扱いするな。これでも十六だ!」
「十六!? それでまだそんなに生意気なの!? 生意気が可愛いのはせいぜい中学生までよ」
「うるせーな。受け取ったらさっさと行けよ。お前のせいでハロルド様の機嫌が悪くてこっちも大変だったんだぞ」
あ、やっと青髪の名前を思い出した。ハロルドだ。
「ちなみにあんたは何者? 服装的に……コック?」
よく見ると生意気男はコックコートを着ていた。
若いのに城のコックを任されるなんて、実は天才少年だったりして――ほら、天才って生意気なイメージあるし。