悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「改めて自己紹介してもいい? 僕の名前はアルフレッド・オーズリー。アルって呼んでよ。君の名前は?」
「……マリア。マリア・ヘインズ……」
「マリア! やっと聞けた。僕たちが仲良くなる手始めに、ここで一緒にランチを楽しもう」
「…………」
演技か? 演技なのか?
いい奴っていう仮面を被っているのか?
どうして厄介者の私に優しする?
「そういえばマリアは昨日リリーとこの花畑に一緒にいたってロイから聞いたけど、二人は知り合いだったの?」
! ……ははーん。わかったわよ。この男の考えが。
優しく近づいといて、リリーに手を出すなって陰ながら王子直々に釘を刺しにきたってことね。
ここにリリーといたことをロイが言ったなら、私がわざと転ばせたってことを絶対に話してるだろうし。
「昨日初めてここで会っただけよ。何を吹き込まれたか知らないけど、私は決してわざとリリーに危害を加えたんじゃないから」
わざと強めに否定して嘘つき女だと思わせようとした私に返ってたの返事は――さっきのジェナ以上に意外なものだった。
「知ってる」
「……へっ?」
「さっき、君の柔らかな笑顔を見た時に確信したんだ」
今の今まで、私は話してる最中に笑顔を見せた覚えはない。
「花、無事でよかったね」
「!」
どうして知ってる?
私しか知らないはずの、ラナおばさんの思い出の青い花の話を――
驚いて口からぽろりと落ちたレタスが野原の緑と同化する。
そんな私を見て楽しそうに笑う王子……いや、アル。
「じゃあ僕は先に戻るとするよ。また後でゆっくり話そう。またね。マリア」
流れるような動作で手の甲に軽くキスをして、アルは花畑を後にする。
――悪役なんだ私は。我儘で、傲慢で、性悪で。
嫌われてゲームオーバーする宿命なんだ。
王子からの好意なんていらない。
いらないのに。
アル(あいつ)の私を見る眼差しは――間違いなく好意で満ちていた。
「迷惑!」
私は叫ぶ。本心を。
それはこれから思うようにいかなくなりそうな、手強い強敵が現れたことへの嘆きでもあった――