悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「女の涙には慣れてるってこと? 散々泣かせてきたとか?」
「泣かせたことなどないが、俺の人生で初めて泣かせてもいいと思う女に今出会ったな」
「やだ。ハロルドの初めてをもらえるなんて光栄ね」
「気安く名前を呼ぶな。望み通り今すぐ泣かせてもいいんだぞ」
しばらく無言の睨み合いが続く。
ハロルルド――女の涙にも全く弱くない冷めた男。瞳も心も。
今まで自分を見るとへらへら笑い機嫌を取ってくる男ばかりだったからか、私はこの男の態度がどんなに酷いものでも面白いとしか感じない。
……あ。思い出した。一番無愛想だったから、私ゲームしてた時は一応ハロルドを攻略しようとしてたんだ。
確か少し仲良くなると一気にデレるタイプで、その温度差に耐えかねて攻略を断念したんだった。
でもその時はリリーとしてプレイしてたから、ここまで冷たい態度は取られなかった気がするけど……やっぱりそこも主人公補正か。
「……ていうか、勝手に出てけとか言ってるけどそれを決めたのは誰?」
「…………」
「あら。言えないの? まさか王の命令もなく独断での行動? そんな勝手なことをする権利が貴方におあり?」
強気な佇まいから一変。分が悪そうな顔をするハロルドを見逃さずに私は詰め寄る。
「それは……っ」
「ないのよね? ハロちゃんだめじゃない勝手なことしちゃ~」
「! お前、いい加減に――」
からかような言い方が城の天井を軽く突き抜けるくらい高そうなプライドに傷をつけたのか、怒りでわなわなと震えるハロルドが声を上げたその時だった。
「マリア! ここにいたのね!」
「……リ、リリー!?」
「今朝は会えなくて寂しかったわ。ランチにもいないし心配してたの」
リリーが突然やって来て、私を見つけるなり嬉しそうに笑いながら両手を握ってくる。
まさか私を探してくれていたのだろうか。
清楚な白いフリルのブラウスにふわっと広がるチェックのロングスカート――か、可愛い。
私は初めて見るドレス姿ではなく普段着のリリーに思わず見惚れていた。