悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「わ、私もリリーに会いたかったのよ。でもこの男が――」
「あら! もしかしてハロルドがずっと一緒だったの? 珍しいわ。人見知りのハロルドがもう打ち解けるなんて。さすがねマリア!」
「リリー様。ご冗談を。この女は花嫁候補から外れたので帰るよう忠告しに来ただけです」
敬語!? ハロルドって敬語使えたんだ……
リリーはハロルドとも当たり前に顔なじみってことね。こんな鉄仮面に怯むことなく話しかけてるし。
「マリアを帰す!? どうしてハロルド。まだ王子の花嫁は決まってないじゃない」
「決まってるも同然。リリー様ならおわかりでしょう。それにこの女はたった一日で二度も問題を起こしています」
「ちっともわからないし、マリアは何もしてないわ」
ハロルドからするとリリーを想っての行動なのに、一歩も譲らないリリーの予想外な反応に困惑しているのか黙り込むと――
「ちょっと来い」
「はっ!?」
私の腕を乱暴に引っ張り、少しリリーから離れたところでリリーに聞こえないようヒソヒソ話を始めるハロルド。強く掴まれた腕が痛い。この馬鹿力め。
「……お前、魔術でも使えるのか?」
「急に何言ってんのよ。使えてたらとっくにあんたのスカした面に一発お見舞いしてるわ」
「そうでもないとリリー様がお前みたいな女を庇うなんて考えられない。……何か隠れた力を持ってるんじゃないのか?」
持ってたとしてももう使い終わっている。乙女ゲームの世界に転生するって私ですら知らなかった隠れた力をね。
「あれ? マリアじゃないか! ……リリーと、それにハロルドも。あはは。面白いメンバーだな。何してたの?」
私がハロルドに魔女と疑われ今にも身ぐるみを剥がされそうになっていると、またもや新たな声がその場に響いた。
「――王子! いいところに! ハロルドがマリアをお城から追い出そうとしているの」
「何だって!?」
わかりきっていた声の主はアルで、リリーはすぐさまアルに駆け寄りハロルドを指さして私を勝手に追い出そうとしていたことをアルにバラす。
さすがのハロルドもこの緊急事態に焦ったのか、「……まずいな」と小さく呟きその額にはうっすらと汗が浮かんでいた。