悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「ハロルド。僕がいつそんな命令をした?」
「……いえ。一度もしておりません」
「その通りだ。勝手なことをされたら僕も、マリアだって困るだろう。それに僕は彼女を帰す気はない」
「! ロイの話をちゃんと聞いていたのか!? 王子までこの女を庇う理由など――」
「帰 さ な い」
一言一句、きっぱりとアルはハロルドへ告げる。私を帰さないと。
こうなれば完全に四面楚歌なハロルドはもう何も言えなくなる。私は表情こそ大きく変わらないが悔しさが滲み出ているハロルドを見てにやにやが止まらなかった。
「そうだ! せっかくだしこれから四人でティータイムでもどうかな? マリアとリリーに美味しいお茶とお菓子をご馳走するよ」
「素敵! マリア、一緒にお茶ですって! 行きましょう」
「……そうね。リリーがそう言うなら」
仕方ない。
アルとは深く関わりたくないけど、ここで誘いを断ってリリーを独り占めされるのは癪だ。
「ハァ……乗り気ではないが、お前が何かしでかすかもしれないから俺も行くとしよう」
「来たくないなら来なくていいのよ。あんたお茶菓子似合わないし」
「黙ってさっさと歩け!」
ハロルドに足元を蹴られたので私も思い切り蹴り返す、が、一つもダメージを食らってないようだ。ぐぬぬ……!
そのままアルに案内されて、私達は城のテラスでティータイムを過ごすことになった。
香り高い紅茶にレモンを浮かべ角砂糖を一個。更にノエルが焼いたらしいいろんなお菓子が並んでいる。
マドレーヌ、スコーン、タルトタタンにいろんな形をしたクッキー。
「あ、このクッキー! わたしがノエルと一緒に作ったの」
リリーが並べられたクッキーを見て嬉しそうに口元で両手を合わせる。
チョコチップの入ったスコーンに手を伸ばそうとしていた私は予定を変更し、リリー手作りのクッキーを掴み口に運んだ。