悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
私とハロルドがくだらないやり取りをしている内に、横を見ればリリーとアルが向かい合わせで昔話に花を咲かせていた。
「リリーが小さい頃このテラスに来た時は、紅茶も飲めなくてずっとホットミルクを飲んでいたな。それも砂糖たっぷりの」
「恥ずかしいわアル。それに今でもミルクティーしか飲めないの……アルは昔から苦いコーヒーも飲んでたわよね。大人だなって尊敬してたわ」
リリーもいつの間にかアルのことを王子と呼ばず、素の自分を見せていた。
これが本来のアルの前でのリリーの姿なんだろう。
入る隙もない二人の会話。完全に私は蚊帳の外だ。
「お似合いだろう。アルに見合う女性はリリー様しかいない」
真っ黒なブラックコーヒーを飲みながらマドレーヌをつまみ、苦味と甘味をいい具合で味わいながらハロルドは二人に聞こえない声量で私に言う。
「ふふっ。アルもあんたも、リリーしか女を知らないだけじゃ?」
「何だと?」
「世の中にはいろんな種類の女がいるのよ。あんた達が知らないだけでね」
「知っている。お前のような悪女もいるということを。今回はそんな奴からアルを守るのも俺の役目だからな」
「人聞き悪いわね。魔性の女って言いなさいよ」
「……本当に魔女じゃないのか? 二人を洗脳しているように俺には見える。しかしいくら頑張ったところでお前に入る隙などない」
アルに興味はないけど、確かにアルとリリーは私から見てもお似合いで絵になる。きっと誰が見てもそう見えるんだろう。
それにしたって、嫌味なハロルドといつまでもリリーを独り占めするアルが気に入らないわね。何か嫌がらせしてやりたいところだけど――あ。
「ちょっとトイレ」
「フッ。仲睦まじい二人を見るのに耐えかねて逃げるんだな」
はいはい。ハロルドも見てて辛いのに強がっているのね――そう思って沸々とこみ上げる怒りを和らげながら、私はとある場所へと向かった。