悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……んぐッ! ゲホッ!」
シュークリームを味わっていたハロルドが急に大きく咳き込み始める。
どうやらマリア特製デスシュークリームを引いた幸運の持ち主は――ハロルドだったようだ。
「ひゃーはっはっは! ハロルドってば顔真っ赤! 氷みたいに冷たい騎士団長様もそんな真っ赤になるのね!」
「き、貴様ァ……ッ! 何を仕込んだ……!」
「安心しなさいよ。ただの激辛ソース。毒じゃないだけマシでしょ。ただの可愛い遊び心よ?」
「マリア、ハロルドは辛いものが大の苦手なんだ」
まさか自分もデスシュークリームの餌食になっていたかもしれないことなんて知らずに、苦しそうに悶えるハロルドを見ながら状況を理解したアルが私にむしゃむしゃとシュークリームを食べながら言う。
「ハロルド、大丈夫!? 早くお水を飲んで! マリア、少し悪ふざけが過ぎるわよ」
リリーはハロルドに駆け寄りすぐさま水を手渡し、ハロルドは受け取った水を一気に飲み干すと力尽きたかのように倒れる。
……リ、リリーに怒られてしまった。ちょっとショック……
「ご無事ですかあぁーーっ!? あ、ああ、ハロルド様!」
そこへ私を追いかけて来たノエルがやっとテラスに到着するものの、時すでに遅し。
ぐったりとするハロルドの腕を肩に回し、私に向かって
「覚えてろよ!」
とだけ言い残し、心配して一緒に着いて行ったリリー共々テラスから去って行った――
「あーーっ! 面白かった」
ひとしきり笑った後、私はテーブルに置かれたハロルドの食べかけのデスシュークリームを食べる。
「マリアは辛いの平気なの?」
「うん。余裕。美味しくはないけど残すのは気が引ける」
ハロルドが悶え苦しんだシュークリームを涼しい顔であっという間に平らげる私を見て何故か小さく拍手するアル。