悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「驚くでしょ? 私も今の二人みたいに驚いてひっくり返るとこだったもの。なかなか手強いわあの女……でも任せて。リリーは確実に辛くて赤いソース恐怖症になってる。辛さに悶えるハロルドを見て青ざめてたから間違いない。パーティー会場の料理でタバスコを見るたびトラウマを呼び起こして気分が下がって王子どころじゃなくなるわよ」

 我ながらどんな理由だ、と笑いそうになるが説得力を出す為に自信満々に語ると二人は

「「なるほど」」

 とまた完璧なシンクロ力を発揮し納得した。いやしちゃうのね。馬鹿可愛い。

「ところでマリア。貴女ハロルド様を呼び捨てするほどの仲でしたの?」
「……ま、まさかぁーっ!? マリアが王子に興味がないっていうのは最初から騎士団長様が狙いで……」
「は!? 何言ってんのよ二人共! それだけは絶対な――」

「ほう。昼間の一件は最初から俺を狙っていたのかマリア・ヘインズ」

 ジェナジェマにハロルドの話を持ち出されると思っていなくて、必死に想像するだけで吐き気がするジェマの仮説を否定しているといつの間にか私達は大広間へ着いていた。
 今日は開かれたままの扉の入り口で最初に私達を出迎えたのは、仁王立ちで腕を組み客ではなく敵を見るような目つきでこちらを見下す話題の騎士団長様だった。

「ハロルド……ごきげんよう。気分はいかが?」
「いいと思うか? お前の頭は一度生まれ変わらないと治らないレベルで重症のようだな。アルさえいなければこの扉を抜けることなくたたっ斬ってやったのに」
「実行できなくて残念ね。でも顔色が回復してて安心したわ。ちゃんといつもみたいに血が通ってるかわからないくらい真っ白よ。昼間はあんなに――真っ赤にっ……ふふっ……」
「途中で笑うな! 俺は生まれて初めて死ぬかと思ったんだぞ! さっき俺を狙っているという言葉が耳に入ったが俺がお前に食わされたシュークリームは――」
「あーあーあーあー! リリーってばほんっとに! びっくりよねぇ! 急に自分のシュークリームを! あ、後ろからお嬢様方がお見えになってるから私達三人は退散するわそれじゃ!」
「待てこの魔女めが!」

 危ない。ジェナジェマの前で本当の話をされたら私の話と食い違ってることがバレるじゃない馬鹿ハロルド! バカロルド!
 まずいと感じた私はハロルドの話を大きな声を出して遮ると、ジェナジェマの背中を無理やり前に押しながら早歩きをし強制的にハロルドの前から退散した。
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