悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「変わってるなお前。頭も馬鹿なら舌も馬鹿なのか?」
「それは私じゃなくて自分の料理人としての腕をけなしてるのかしら。『お前、俺の料理を褒めるなんて味覚だけは合格だな』くらい言ってのけなさいよ。自信がない料理人の方が王子に振り向いてもらえないわよ?」
「――何だと。何も知らねーくせに、お前マジでむかつく奴だな。余計なこと言わなきゃ気が済まねーのか?」
「ええ。そうよ。今まで言いたくても言えなかったことたくさんあったの。だから今は余計なことまで全部言いたくなっちゃうの悪い?」
 
 そこからは無言での睨み合い。
 ハロルドの睨みに比べたらノエルなんてへっちゃらだ。全然怖くない。

「マリア! 見つけた!」

 ――リリーは私が一触即発の時に現れる救いの女神なんだろうか。
 
 いつもいいタイミングで私を見つけてくれるリリーが今も見計らったかのように現れ、睨み合いなんて場にそぐわない可愛らしい声は張り詰めた空気を一瞬で元に戻す。

「リリー様! 昼間は申し訳ございませんでした……! リリー様にまでお手間をかけさせてしまって……」
「あらノエルも! 全然気にしないで。ハロルドが元気になってて安心したわ。……マリアってばまたシュークリーム食べようとしてるの?」

 軽くノエルと話した後、リリーは私の持っているお皿の上にあるシュークリームを見て笑いながら言う。

「あっちにもっと美味しいデザートがあったの! マリアにも食べさせたいわ」
「そうなの? それは是非食べてみたいわ。ある場所に案内してくれる?」
「もちろんよ! 行きましょ」

 楽しそうに軽い足取りで歩き出すリリー。振り返るとそこには少し悲しそうな顔をしているノエルが立っていた。

「悔しいなら花嫁最大候補のリリー様に一番美味しいって言わせてみなさい」

 私はノエルを励ますわけもなく、言い終わった後あっかんべーをし小さなリリーの背中を追いかける。

「――やってやるよ。やってやるからな!」

 私のリリーより少し大きな背中越しに、ノエルの奮起の声が響いた。

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