悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「意外だな……おてんばな子だと思ってたけど、綺麗なステップを踏むんだね」
「うるさい今集中してるから話しかけないで」
「あ、また少し離れようとした。踊りづらいよ」
「あんたが近づきすぎなのよ! あと私のこと見ないで。顔の向きはこっちじゃないでしょ」
「あはは。そこまで徹底しなくていいよ。今はこの距離で君の顔を見ていたいんだ」
アルの顔が更に近づいてくる。どうしてか私も負けじとアルの方へ少し顔を向けると、間違いが起きればキスしてしまうほどの距離に自分の顔が熱くなっていくのがわかった。
今までどんなイケメンに好意を持たれても無感情だったのに。
初めてこんなに近くで見るこの人の瞳は、吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗――
「マリア、君の瞳は情熱的で、その奥に揺るぎない強さが見える――それであって、すごく、綺麗だ」
一瞬、時間が止まったかと思った。
どんどん近づくアルの瞳にはっとして、私はアルから顔を背ける。
何してるんだ私は。でも本当に、一瞬周りの音も何もかも聞こえなかった。息をすることすら忘れていた。
このまま普通に踊り続けるなんて、私はそんなことの為にこのパーティーに参加してるんじゃない。
悪役令嬢マリア・ヘインズとしての意識を取り戻した私は、熱い顔とどうかしていた頭を冷まさせる為にとりあえずヒールで軽くアルの足を踏んづけた。
「いっ!?」
一応王子だしだいぶ軽く踏んだつもりが、声が出るくらいには痛かったらしい。
そしてそのままステップが中断しわけがわからなくなった私とアルは体制を崩し――二人してその場で派手に転倒した。
「王子!」