悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
盛大に広間の中心でこけた私達を見て、すぐにハロルドや他の使用人が駆け寄って来る。
アルに覆いかぶさるようになっていた私をハロルドが乱暴に押しのけ、アルに怪我がないかを確認する。
アルは「全然平気だ」と笑って立ち上がると、いい空気が壊れる前に早くダンスを再開するよう使用人に言った。
「では次に一緒に踊る女性を指名して下さい。王子」
「え――いや、僕は」
「王子、指名して下さい」
ハロルドが私の前にでかい図体で立ちはだかり、アルの視界に私が入らないようにしながらアルに何かを言っている。
少し困った顔をしながら歩き出したアルは、近くでロイと一緒に踊っていたリリーに声をかけていた。
――やっぱり私はリリーの前座に過ぎなかったようだ。
リリーの元へ行ったアルを見届けたハロルドが鬼のような形相で私の方へと振り返る。
「次の私のお相手は貴方なのねハロルド」
「ほざけ」
冗談も通じないまま、私は今日もハロルドによって大広間からつまみ出されてしまった。
****
あのまま閉まった扉の前にいても時間の無駄だと思い、私はラナおばさんのところへ顔を出すことにした。
「おばさん。こんばんは!」
「マリア? あんたまた来たのかい。今はパーティー中だろ?」
「ええ。でもダンスで王子の足を踏んだら怖い騎士団長につまみ出されちゃったのよ」
「何だって? 王子の足を? あっはっは!」
ラナおばさんはひとしきり笑った後、私をお花畑のすぐそばにある自分の部屋へと案内してくれた。
「はぁ……この城でここが一番落ち着くわ」
おばさんに出してもらった温かいハーブティーを飲みながら、私はホッと一息吐く。