悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「マリア・ヘインズ! 勝手に何をしている!」
私が楽しんでいる時に大声で叱ってくる奴は一人しかいない。ハロルドだ。
どうして私がいるところばかりに現れるのか。ハロルドの登場によって湖の心地よい冷たさが一気に凍り付く寒さに変わりそうだ。
「見てわからないかしら? 天気がいいから子供達と湖で遊んでるだけだけど?」
「許可を得ているのか? 先ほど一人の女性から花畑に変な女がいるという苦情を受け嫌な予感がして来てみたらやはりお前がいた。どれだけトラブルを起こせば気が済むんだ」
「別に楽しく一緒に遊んでるだけじゃない。何がいけないのよ」
「まずラナに、そして国民に迷惑をかけるな。勝手に水遊びをしてもし子供が溺れたりしたら責任が取れるのか? どう考えてもいけないことばかりだろう」
いつもネチネチとうざったいだけで響くことないハロルドの言葉だったが、今回は違った。
確かにいくら確認を取ったといっても水の中が100パーセント安全なんてことはあり得ない。ハロルドの言うことは最もで、私の考えが甘すぎたことは事実だ。
「――わ、私は」
「おねーちゃんをいじめないで!」
言葉を詰まらせる私に助け船を出してくれたのは、予想外にも最初は私を邪魔な目で見ていた子供達だった。
一人がハロルドから庇うように私の前に立つと、次々と子供達が私の近くに集まって来る。
「おねーちゃんのお陰で、今日すっごく楽しいんだよ! だからいじめないで!」
「……別に俺はいじめているわけでは」
「いじめてるよ! だってすっごい怖い顔してるもん!」
「…………これがいつもの俺の顔だが」
最もなことを言ったのにも関わらずに、子供に責められたじたじなハロルドからさっきまでの威厳が感じられるわけもなく、私は我慢できずに笑ってしまう。
「あはははっ! こ、子供って正直ねっ……ふふっ」
「気色悪い笑い方をするな! 大体笑いごとではない。王子がこれを知ったらお前なんてすぐに追放だ!」
「誰が追放だって? ハロルド」