悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「ア……王子。何故ここに」
いつからここにいたのか、アルがハロルドの背後からひょこりと姿を現した。
というかこの世界の住人達っていつも突然現れるけど、普通に登場できないんだろうか。
「今日は花畑の開放日だから様子を見に来たら焦ってるラナを見つけてね。マリアがハロルドに怒られてるけどマリアに悪気はないから助けてやってくれって頼まれたんだ」
「ラナまでこの女を庇ったのか!? ……おかしい。一体この女のどこにそんな力が……」
考え込むハロルドを無視して、アルは湖のすぐそこまで足を進めると私の姿をじっと見つめて口を開く。
「随分刺激的な格好だね」
「――えっ?」
下を向くと、たくさん水にかかったせいか着ていたワンピースからうっすらと黒い下着が透けていた。
すぐさまバッと手で胸の部分を隠すと、そんな私を見ながらアルは呑気に笑っている。
「へ、変態王子! じっくり見るなんて最低!」
「ごめん。僕も予想だにしなかったマリアのセクシー姿に驚いちゃって。はい、これ羽織って」
アルは自分が羽織っていた上着を脱ぐと湖の中にいる私に向かって投げる。
慌てつつも湖に落とすことなく無事それをキャッチした私は、アルに背中を向け急いで上着を着て前についているボタンを留めた。
「ハロルド! 僕も今からここで遊んでもいい? いいよね」
「まっ……王子! 勝手なことは」
ハロルドの返事を聞く前に、アルは靴を脱ぎ服を着たまま湖に足をつける。
「天気がいい日の水の中は最高だね。いい案だよマリア」
「王子、もし子供の身に何かあれば」
「心配ないよハロルド。僕とマリアがちゃんと見てる。それに君も見張ってくれれば大丈夫だろ?」
「――ハァ。少しだけだぞ」
アルの頼みならば聞くしかないのか、ハロルドは観念して湖の近くから子供、というより私を見張っているように見えるけど。とにかく見張りをしながら待機することになった。
アルは高価な服が汚れることもお構いなしに、子供達に溶け込み無邪気に遊んでいる。
汚れも気にせず、街の子供達にも自分と対等な立場で接する……王子なのに、この人はいい意味で王子らしさがない。
私の想像していた“アルフレッド・オーズリー”と全然違う隣にいるアルに戸惑いながら、私とアルはその後も湖で子供達との時間を目一杯楽しんだ。