悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
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 子供達が帰った後、濡れた服を着替える為にラナおばさんが私とアルに代わりの服を用意してくれていた。
 おばさんの部屋でサラサラな新しい服に着替えまた外に出ると、子供達がいなくなり清閑とした花畑で僅かに吹く風を浴びる。

 同じく着替えを済ませたアルが私の姿を見つけてか部屋から出て来ると何も言わずに私の隣に立ちつくし、少し時間が経ってから口を開いた。

「君に会ってから、いろんな人の知らない表情に出逢えてる気がするよ」
「そう。私も貴方の意外な顔ばかり見てる気がするわ。それより今日は一緒に湖に入るなんてどういうつもり? 私が王やハロルドに怒られないよう庇ったの?」
「半分正解。これ以上問題を起こして君を城から追い出さねばならなくなることだけは避けたい。……もう半分は純粋に僕も湖で遊びたかったんだ。子供の頃を思い出してね。マリアはどうして湖で遊ぶなんてことを考えたの?」

 それはおばさんの花を守る為に野原から遠ざけたかっただけ、だけど。
 この話はおばさんに口止めされていて、アルには話せない。

「――別に、私も自分が入りたかっただけよ。ていうかアルって見た目は完璧な王子様なのに、思ったより王子らしくないのね」

 そう言うと、アルは首を傾げ考えるように言う。

「……僕らしいって、王子らしいって何だろう。逆に、こんなにも王子らしくない僕は何年ぶりだろう」

 顔を上げると、アルと視線がぶつかった。

「君といるとどうしてか全部忘れてる。自分が王子ってことも。ただの男になってるんだ」

 二人の間を大きくて生ぬるい風が吹き抜け、互いの髪を揺らす。

「王子っていうのは大変なの?」
 
 これが、私が初めてアル自身にちゃんと興味を持って聞いた初めての質問だったかもしれない。
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