悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
目の前の信号が赤になり立ち止まると、突然横から猫が飛び出してきた。
「――危ないっ!」
急に現れた思い入れもない野良猫を、何故か咄嗟に庇った私の耳に鳴り響く車のクラクション音。
次の瞬間、身体が大きく宙に浮いた。
抱きかかえて守った猫が私の腕をするりと抜ける。
ああ。きっと猫を庇い車に跳ねられた心優しい女子大生ってニュースで報道されるんだろうな。
イメージ通りの、聖母マリアのような見出しで。
周りがざわざわしている。でも段々その声も聞こえなくなってくる。
何て言ってるの? 聞こえない。見えない。痛い。
あれ――私、このまま死ぬ?
私が死んだら私を散々悪く言った彼女達は、私の友人として泣いてインタビューに応えるのかな。
「はっ。笑え……る……」
人は平等ではない。
自分で変えようとしない限り、ある程度の人生のレベルなんてものは生まれた時から決まっている。
生まれ変わったら私は、そうね……
仮面なんか着けないで好き放題してやりたい。
私らしく生きられる人生を送りたい。
――そのまま、私の意識は途切れた。