悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
まだ二日しか経ってないのに、避けても何を言っても結局距離は縮まる一方。
時々、心を許してしまいたくなる感覚にも陥る。
ダメだ私。このままじゃアルルートまっしぐらじゃない! 何してんのよ悪役令嬢!
周りの男からはしっかりと嫌われてるのに、アルはどうして? リリー一筋で、ゲームの時はマリアなんて全く相手にしてなかったじゃない。
――アルは、このままの私を大丈夫だっていうの?
心が僅かに乱れたまま自分の部屋に戻ろうとすると、入れ違いで来たリリーとばったり遭遇した。
「リリー……」
「マリアっ! ここでまた会えるなんて嬉しいわ」
「……そうね。私もよ」
可愛くて大好きなリリー。憧れの女の子。
小さくて、ふわふわで。私がなりたかった女の子。
「ねぇリリー。一つ聞いてもいい?」
「もちろん。どうしたの?」
「リリーは、アルのことが好きなの?」
どうしてこのタイミングでリリーにこの質問をしたんだろう。
きっと私はただ、確認したかった。
「――アルは素敵な人よ。今も昔も変わらず。一緒になることを……望んでる」
リリーの返事はどこかはっきりしない様子も見られたが、それは一応花嫁候補者である私への気遣いだったのかもしれない。
「そう。やっぱり好きなのね。リリーってば、隠しても無駄なんだから!」
「でもマリアは随分アルに気に入られてるじゃない。昔から知り合いのわたしより仲良く見えるもの」
「ないない! 私はリリーの前座だってば。ハロルドとノエルにも嫌われてるし、ロイも私のこと嫌いでしょ? 嫌われてる私を優しい王子が憐れんでるだけよ」
「わたしはマリアのこと大好きよ。ふふ」
リリーが私に見せる笑顔に嘘はない。
それなら私は、絶対にリリーを裏切るようなことはしたくない。
――きっとアルも私を面白がっているだけで、本当に私を好きになるなんてことはない。
私自身も……それを望んでいないのだから。
野原を揺らしながら私とリリーの間を吹き抜ける風は、少しの温かさも残さずに、すっかり冷たくなっていた。