悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
私がハロルドにとっては軽くトラウマだろうシュークリームを見せつけるように一口かじりながら言うと、ノエルは慌てながらハロルドに否定する。
「ごご誤解されるような言い方をするな! 違うんですハロルド様! 言葉のあやというか、とにかく違うんですっ!」
「お前、アルだけではなくノエルにまで色目を使っているのか。節操のないふしだらな女だ」
騎士団長というより武士みたいだなと思いつつ、私は食べていたシュークリームの残りをうるさいハロルドの口に押し付けた。
「んん″っ!? な、何をっ」
「今日は辛くないから甘くて美味しいでしょ? ハロルドにも食べて欲しくて。まぁ本当はうるさい口塞ぎたかっただけだけど」
「……ぐっ……! お前のような女の食べかけを自分の体内に入れてしまったことは一生の不覚。覚えておけ。いつかそのスカした面を恐怖に陥れてやる」
「あ、あの~……俺そろそろ持ち場に……あっ! す、すいません!」
面倒ごとが起きる前に一刻も早くその場から逃げようとしたノエルが後ずさった瞬間、誰かにぶつかってしまったようだ。
重い食器を持ったまま頭だけを何度も下げるノエルの先には、リリーの付き人であるロイが立っていた。
……めんどくさいオールスターズが揃ってしまった気がする。
「ノエル様。こちらこそ申し訳ございません。リリー様がアル王子の元へ行ったのを確認する為周りを見ずに歩いていた私の責任でございます」
「ロイさん! いや、俺の方こそ――リリー様、今アル王子のところに?」
「はい。順番が回ってくるか不安そうでしたが、アル王子はきちんとリリー様との会話時間を設けて下さいました。感謝しております」
ロイがノエルとハロルドに向かってお辞儀をする。
そういえば今日はギリギリまでジェナジェマと一緒にいたからか、珍しくリリーが話しかけてこなかったな。
そっか。リリーがちゃんとアルと話せてるならよかった。