悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……ん? 列がもうないということは、リリー様が最後だったということか」
「そうですハロルド様。後がいない分他の方よりも長くお話させて頂けていると思います」
「きっとそれは王子の計らいだろう。――ふん。お前が列に並ばなかったことだけは褒めてやる。今日は無事にパーティーを終えられそうだ」
ハロルドは最後に私に捨て台詞を吐くと、いつもいる扉の前へと戻って行く。
ハロルドが歩き出したと同時にノエルもキッチンへと戻り――何故かロイは私の近くに立ったまま。
リリーには悪いけど苦手なのよね。この男。
気まずい雰囲気のまま話すこともなく空になったグラスに口をつけていると、ふいにロイが口を開いた。
「……お似合いですよね」
ぼそっと小さな声で言うロイの視線の先には、笑顔で楽しそうに話しているアルとリリー。
ロイの表情は笑っていながらも悲し気で――私はかける言葉が見つけられなかった。
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「……マリア・ヘインズ。ちょっといいか」
パーティーが終わり広間から一目散に出ようとした私にハロルドが声をかける。
「何? 今日は私珍しく大人しくしてたじゃない」
「王子がお呼びだ」
「……アルが?」
「ああ。こっちに来い」
ハロルドに言われ、私は他の令嬢達がいなくなるまで無言のハロルドと隅っこで一緒に待機させられる。
広間から人がいなくなってから誘導されたのは、アルがさっきまでリリーと話をしていた場所だった。
「マリア。待ってたよ」
アルは笑いながら自分の横をポンポンと叩く。隣に座れ、という意味だろう。
連れて来られてしまえば座るしかないので、大人しくアルの隣に腰かけると思ったより沈むソファに驚きながらアルの方を見る。
さっきまでの笑顔はどこへ消えたのか――明らかに不機嫌そうな顔をしたアルが私をじーっと見つめていた。
「……何よその顔」
「どうして僕のところに来てくれなかったんだ?」
「別に必要ないかなって」
「ひどいよマリア。嫉妬させるのも君の作戦なら僕はまんまと引っ掛かったってことだね」
今日は特に何か仕掛けた覚えは微塵もないが――というかそれよりもアルの様子がおかしい。
顔が赤いし、いつもより呂律も回ってない気がする。ふらふらして目も赤い。