悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「アル……もしかして酔ってる?」

 ソファの前にあるテーブルに置かれた空になったワインボトルを見て私はそう確信した。

「酔ってるのかな。マリアが言うならそうなんだと思う」
「いや自分で気づいてよ。お酒弱いのにワイン一本開けちゃったわけ? 信じらんない」
「まだ二十歳になったばかりでお酒は得意じゃないんだ。でも飲むしかなかったんだよ。マリアがハロルドやノエルと話すから」

 何がどうなって私が二人と話すことによってアルのお酒が進む事態になるのよ。

「……話し過ぎだよ。僕とは話さないのに。いつの間にそんなに仲良くなったの? 僕の知らないところで」
「仲良くしてるように見えたならあんたの目イカレてるわよ」
「ああ見えたよ。ここからずっと、他の女性と話してる時もずっとマリアを見てた。だからちっとも話が入ってこなくて大変だったんだ」

 私に言われたって知ることか。
 アルは酔っているからかぐいぐい距離を詰めて来て、私は逃げるように離れるが遂にソファの端っこまで追い詰められてしまう。

「ア、アル……? ねえ近い、近いってば!」

 アルが私の両手首を掴む。
 握られた手は熱く、潤んだ瞳には私の姿が映っている。

「――僕は君に、夢中なんだ」
「まっ……!」

 そのまま近づくアルの瞳。
 逃げられない私の唇に、柔らかい感触。

 ――アルと私の唇が重なっていることに気づくまでに、時間はかからなかった。

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