悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……やめてっ!」
私は力ずくで握られた手首を解きアルを思い切り押しのける。
私が大声を上げたことで冷静になったのか、アルもはっとした顔をして私を見た。
「……マリア、僕は」
「最低」
「…………マリア、」
「最低よ。お酒の勢いに任せて無理やりこんなこと……もう二度と私に関わらないで」
私は立ち上がると、私の名前を呼ぶアルの方を一度も振り返らず大広間から飛び出した。
信じられない。あんなことをしてくるなんて。
アルが、無理やりキスしてくるような人だなんて思わなかった。
最低。何が王子よ。何が花嫁候補よ。選ぶ立場だったら何をしてもいいとでも?
部屋に戻り窮屈なドレスのままベッドに突っ伏す。
このまま寝て忘れたい。さっきのことを。
そう思えば思うほど眠ることなんてできず、アルの唇の感触や握られた手の熱を思い出してしまう。
嫌だ。早く忘れたいのに。
しばらく一歩も動かずそうしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
――誰だろう。私の部屋に来るなんて。
ハロルドが急に飛び出したことを怒りにでも来た?
それともパーティーで話せなかったリリー?
誰でもいい。誰かと話していた方が気が紛れる。
そう思い、私はゆっくりとドアを開けた――