悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
君が好きだ
電気も点けず真っ暗だった部屋に、ドアを開けた瞬間廊下の眩しい光が差し込む。
光と同時に目に飛び込んできたのは――
「……やあマリア。さっきぶり」
今一番会いたくない男だった。
「二度と関わらないでって言ったでしょ。さよなら」
「待ってくれマリア。せめて謝らせてくれ。お願いだ」
「…………入って」
廊下で騒がれて周りの人達にアルが部屋に来たことがバレたら面倒なんて言葉じゃ済まない。
王子自ら一人の女の部屋を夜中に訪ねて来るなんて――
部屋にアルを入れすぐさまドアを閉め鍵をかける。
アルが私の部屋に来ることがあるなんて思ってもなかったから部屋は散らかりっぱなし。
床に散乱したドレスやワンピース。メイク道具も机のあちこちに散らばってベッドのシーツもぐしゃぐしゃ。
いくら部屋を暗くしても近くで見られたらこの汚さは誤魔化せない。それに暗い部屋に二人きりっていうのもちょっと怖い。
別にアルに汚い部屋を見られたところでどうでもいいやと思った私は、部屋の電気を点けた。
私はそのままベッドに腰かけ、いろんなものが転がっている床の何もない部分に立ったままのアルを見る。
「……酔いは冷めたのね」
顔を見ると赤かった頬はいつもの白さを取り戻し――逆にちょっと青白くなってる気もするけど。
目もきちんと開いていて、意識もしっかりしている様子だった。
するとアルは勢いよく私に向かって頭を下げる。
「本当にごめん!」
「…………」
「反省した。子供じみた嫉妬してお酒の勢いで何とかマリアの気を自分に引こうなんて馬鹿な真似をして君を傷つけた。……申し訳なかった」