悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 あんなに怒ってもやもやして気持ち悪かったのに、そういった負の感情全てがスーッと引いていく。
 他の男に同じことをされていたら、こんなに早く怒りが引くことも、ましてや許すこともできたんだろうか。

 男嫌いだった私が――アルにだけは、何故か調子を狂わされる。

「マリア。僕からもあと一つだけいいかな」

 アルが私に歩み寄り、ぶらんと下がっていた両手を取って胸の位置まで上げると、丁寧に一本ずつ自分の指と絡ませる。
 手をこうして握られたのは初めてのことじゃないのに、まるで初めてのように緊張していた。

「順番を間違えて君を傷つけてしまったけど――僕は君が好きだ。マリア」
「…………!」
 
 突然の告白に、おもわず息をのんだ。
 アルのまっすぐな視線と気持ちに、言葉を紡ごうとする私の唇は微かに震える。

「アルが好きなのは……昔も今も、リリーでしょう?」
「リリーのことはもちろん大切だ――まるで本物の妹みたいに思ってる。でもその感情は恋じゃない。愛情はあっても、別の愛情だ。マリアがいる以上僕は君しか見えない」

 妹? リリーが?
 じゃあアルはずっとリリーのことを恋愛感情では見てなかったっていうの?

 それが本当なら、リリーとの婚約お披露目会っていうのも嘘で――いや、それとも。
 周りはみんなそう思っていたけど、アルだけは違ったってこと?
 アルは私を好きにならなければ、リリーとの結婚を受け入れていたの?

 私に――真莉愛だったマリアに出逢ったから、アルの中のリリーは妹で終わったの?

 そもそも一番おかしいのは。
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