悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「どうして、私なの。王子の貴方に見向きもしない変わり者だったから? おかしいじゃない。私を好きになるなんて。だって――」
本来のマリアはもっとアルに好かれることに必死だった。それだけがマリアが家に戻れる唯一の救いだったから。
でも私は何もしていない。自分勝手に好き放題。アルが周囲の推すリリーじゃなく、嫌われている私を選ぶ理由がないのだ。
「……どうして、おとぎ話とか……架空の世界の王子様っていうのは、いつも一目見るだけで相手を好きになるのよ。すぐに結婚してめでたしめでたしって。結局綺麗な見た目しか見てないからでしょう? 外見がどんなに美しくても心は絶対に見えない。腹の中は真っ黒かもしれないのに」
私がここに来るまで見てきた現実に、見た目も心も綺麗な人なんて一人もいなかった。
おとぎ話のお姫様や王子様だって一緒。存在するならそれは作り物だからだ。
「確かに、マリアの言う通りそうかもしれない――でもそれの何が悪い?」
「……え?」
「王子の腹も真っ黒かもしれないし、そんなこと言い出したらキリがないよ。本人しかわからないことは他人に絶対答えは出せない。だから人は自分が見えるものを信じて好きになるんだ」
「そう。心の中はちっとも笑ってなくても楽しく笑って見えたならそれを真実とするのね。なんて自分にとって都合のいい解釈なのかしら」
アルは、そうじゃないとどこかで勝手に期待していた。
今まで私が毛嫌いしていた男達とは違うと。
結局、同じ――
「でも、君は違うだろう?」
アルは優しい声で、ムキになった私のせいで解けそうになっていた手をまた強く握り直し言う。
「だって君は僕に全く好かれようとしないまま、こんなにも僕の気持ちを動かしてしまった」
「――っ!」
「つまり君に関しては、僕に見えてるマリアも、心の中の本当のマリアも一緒だ。マリアが無理して笑ったことある? 僕に媚びを売ったことがある? 君はいつも機嫌が態度に出て素直だった。僕には目の前の君が嘘に見えない。嘘だったなら僕の目は節穴だったんだろうね」
無理して笑ったことも媚びを売ったこともない。それはそうだ。
私はマリアとして生きると決めてから、一度だって偽りの仮面を被っていない。