悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
そんな私を好きだと言うアルは……本当の私のことを……
「マリア、君は今も僕に興味がない? 少しも、好きじゃない?」
「……そうよ」
「あ、今嘘を吐いたね。さっきまでと今、君は違う瞳で僕のことを見ている」
私が今どんな瞳でアルを見ているかはわからない。でもアルの瞳は最初から変わらず、慈しむように今も私を見続けている。
やめて。優しい声を、言葉をかけないで。
胸の辺りからじわりと広がっていく知らない感覚。触れられたところから流れるように熱が広がり身体が火照る。
極めつけに、大きくなる鼓動の音――こんなの。
まるで、アルにときめいているみたいじゃない。
アルにはそんな私がお見通しなのか、握っていた大きな手は今度は私の両頬を包み込む。
私の顔を上に向かせると、アルは耳元に顔を近づけ小さな声で囁いた。
「マリア――もしまた君と唇を重ねることが許されるなら……今度は君から僕にキスをしてくれないか。僕はどんな時も君を受け入れるよ」
言い終わると耳元から顔を離し、また私の方を見て満足そうに微笑む。
さっき怒ったばかりなのにもう次のキスの話なんて馬鹿じゃないのと怒鳴ってやりたいのに。
「そんな日はいつ来るんでしょうね」
やっとの思いで私の口から出たのは小さな反抗だけで。
「きっとくるよ。近い未来必ず」
部屋に入った時と違い余裕そうなアルは、私の前髪を上げるとおでこに触れるだけのキスを落とす。
どうしてか私はこの時アルの言う“近い未来”を否定できず。
そんな未来が来たらいいのに、とすら思っていた。