悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
取り巻きの疑念
アルが出て行った後の部屋は微かにアルの香りが残っていて、私はアルからの告白を思い出すと今まで感じたことのない感覚に襲われ布団を頭から被り一人でベッドの上で足をジタバタとさせていた。
「……もう! どうすればいいのよ。どうすれば……」
アルが、私を「好きだ」と言った。
――マリアからしてみれば、願ったり叶ったりじゃないの? こんな予想外な展開は。
だって、アルの結婚相手に選ばれればマリアは家に帰れる。そして裕福で安全な国の妃として不自由ない幸せな日々を送れる。
私はベッドがら起き上がると、机の上に置きっぱなしにしていた招待状の下に隠したままの手紙をそっと取り出しもう一度読み直した。
「誰よりも美しく……強いマリア。お前なら王子の心なんて簡単に掴むことができる筈だ……」
手紙に書かれた一文。
ゲームのマリアがどれだけ頑張っても叶えられなかったことを、確かに簡単に掴める場所まで私は来ていた。
もしかしたら私がこの世界に生まれ変わりマリアになったのは、マリアをハッピーエンドにさせる為だったのかもしれない。
だったら私がアルを受け入れさえすれば……それにアルは私自身を見て、その上で好きだと言ってくれた。
そんな人がいるなんて、誰にも自分を見せられなかった頃の私は考えたこともなかった。
『だって君は僕に全く好かれようとしないまま、こんなにも僕の気持ちを動かしてしまった』
今まで読んだどんな創作の告白セリフよりも、アルの告白に私は心を動かされ――握られた手を強く握り返したい衝動に狩られたのだ。
――でも、私がアルの結婚を受け入れたらリリーはどうなる?
どうしてもそれが頭に残り、私は今も決断できない。
リリーはずっと憧れていて大好きで、やっと実際に出逢えた。
ここへ来てからも一緒にいて、私に優しくしてくれた。友達だと言ってくれた。
リリーを助けたかった。いじめから守って、嫌われ役は好んで買って出て、寧ろリリーを奪って行くアルが最初はむかついて仕方なかったのに。