悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
ジェマがいつもの口調と態度に戻ってきている。
二人の反応を見る限りアルが私の部屋を訪れたことはバレていない。だったらこれで押し通すだけ。
「――そう。確かにマリアは目立つ行動をしてましたし、今回は信じることにしますわ……ですが」
何かを言いかけたジェナがコーヒーを一口飲むと、ジェナがつけていた真っ赤なリップがべったりとカップの白い部分を染めた。
「もし私達が警戒すべき相手がリリーでなくマリアだったとしたら……という疑念が浮かんでいることだけは覚えておくのね」
続いて放たれた言葉は私に対する警告に取れるもので、ジェナは私とアルの仲を少なからずまだ疑っているということ。
「そうだった場合、マリアはずっとジェマとお姉様を欺いてた裏切り者とみなしちゃうからぁ」
「ちょっと二人共……何言うのよ急に」
「私達だって大好きで頼れるマリアを疑いたくなんてありませんの。でも女の世界に裏切りはつきもの――私は王子が欲しい。それにはリリーが邪魔。マリアは私達にリリーを追い詰めて城から追い出す役目を買って出た。だったら行動で見せて頂戴」
ジェナはきっと、決定的な行動を起こさない私への不満が溜まってきている。
返事をしないで俯いたままの私を見て、ジェナは立ち上がるとそのまま私から離れた席へと移動してしまった。ジェナを追いかけるようにジェマもいなくなる。
ジェナジェマとの時間は楽しくて、さすがゲーム内でつるんでいただけある安定感があった。
リリーと同じくらい二人が可愛くて、本当に二人の幸せだって望んでいた。
なのに私は――正直に生きるなんて決心したくせに、大切な人に嘘を吐いてばっかりだ。
優しい嘘に思わせて、全然優しくない嘘を。