悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
仮面

 城の中のまだ見たことない場所を駆け回り、アルに手を引かれた先は少し埃っぽさを感じる物置部屋だった。
 わざわざこんな人気もなく綺麗でもないところへ連れて来るアルの意図がわからずにいると、アルが部屋の奥にある梯子を上り始め私を呼ぶ。

「マリア、こっち。ちょっと長い梯子だけど足元気を付けてね。本当は僕が後から上ったらいいんだろうけど、そしたらワンピースからマリアの下着が見えちゃうかもしれないからやめておいた」
「――いい選択ね。梯子上るくらい一人でも余裕よ」

 勝手にパンツを見られるなんてたまったもんじゃない。言わなければわからないことを言っちゃうアルもどうかと思うけど。
 言われた通り少し長めの梯子を黙々と上り、先に着いたアルが最後は上から手を取り引き上げてくれる。

「……! ここは」

 物置部屋から続く梯子を上った先にある小部屋の窓から見えたのは、街全体や空を贅沢に見渡せる最上級の景色だった。

「綺麗だろう? 街や、夜になると星が見える。城の人間だってほとんど知らない僕のお気に入りの場所なんだ」
「ええ。すっごく綺麗……」

 小さな悩みも大きな悩みも全部忘れちゃうくらい、私はこの景色に見入っていた。
 広がる街の街灯はキラキラと光り、私が城で一番のお気に入りであるラナおばさんの花畑もここからよく見える。
 
「本当は、マリアと街に出たかった。でもそれが今許されないことはわかってる。だったら君とこの城を探検するのも楽しいんじゃないかと思ったんだ」
「城を探検? それってアルは何が面白いのよ。自分が暮らしてる城のことなんて知り尽くしてるでしょ?」
「でも君はまだこの城を知らない」
「まぁ、そうだけど……」
「僕も君と一緒に過ごす城での景色はまだまだ何も知らない。だから手始めに一番お気に入りの場所から見る景色を、君と一緒に見たかった」

 少し後ろから私越しに窓の向こうを眺めていたアルが私の隣に移動し、窓枠に腕を置いた。
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