悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「両親はお金だけ持っていて私のことなんてほったらかし。女の子には陰で嫌われ、好きでもない男達は頼んでもないのに寄って来る。仮面を外した私を見たことがないのに私を好きだと言う。不快で、滑稽で……私は男の人が嫌いだった」

 自分に女友達ができないのは寄って来る男のせい。男さえ私の周りにいなければ、私は家以外の場所でも寂しい思いをせずに済んだかもしれないのにと当時は本気で思っていた。
 今考えれば、ただ単にそんなことで妬み陰口を叩く女の子にしか出逢えなかったしいなかっただけなんだろうけど。

「結局私も臆病でその世界で仮面を外せなくて――だからこの城に来た時に決めたの。もう絶対に同じことはしない。仮面は捨てて踏みつけて、今度こそ本物の私として生きるって。嫌われてもいい。王子と結婚できなくてもいい。私の目的は私らしく楽しく毎日を過ごすことだけだから」

 私はアルから顔を背け、また街を眺めた。
 アルと視線を交わしながら話すのが辛くなってきたのだ。

「……嫌いになった? アルが思ってたような女じゃなかった? 昔の私は、今の私とは全然違うから」

 アルが今の私を好きになってくれたことはわかっている。
 それでもやっぱり昔のことは完全に忘れられない。アルのことを信用していいのか私はまだわからなかった。
 
 真莉愛の話をするつもりだって全くなかったのに。
 この場所を教えてくれたアルに、どうしてか私は全てを話したくなったのだろう。

「マリア、こっちを向いて」
「…………」

 私は下を向いたまま、ゆっくりと身体をアルの方に向き直す。
 恐る恐る正面を向くと、アルは真剣な顔をして私を見つめていた。

「昨日僕は言った。どんな時も君を受け入れる、って。それはつまり、どんな君も僕は受け入れるということ」
「アル……」
「辛い過去だったのに、話してくれてありがとう。マリア」

 アルは私をそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
 声が、仕草が、表情が全部全部優しくて、あったかい。
 私はアルに身を任せ、アルに気づかれないよう、アルの胸に顔を押し付けたまま少しだけ泣いた。

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