悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……ここには少しだけど小さな花が咲いてるんだよ」
「え、そうだったの? ごめん気づかなくて」
焦って自分が座っている周辺に花がないか確認する。
幸いにも花は咲いておらず、一つも潰さずに済んだようだ。
「ま、目立たないひっそりと咲いてる花だから、気づかなくて当たり前なんだけどね」
「いやそれでも潰しちゃったらさすがに罪悪感が……ていうか、おばあ――おばさん誰?」
出逢ったばかりの人におばあさんと呼ぶのもマナーとしてどうなんだろうと思い、女性に優しい私はすぐさま言い直す。
「あたしは城の敷地内の花畑……つまりこの場所を管理してるんだ。名前はラナ。お嬢様はアル王子に呼ばれた一人だろう?」
「アル王子?」
「王子が開くパーティーだよ。お陰で今日から大忙し。華やかなお嬢様が城にわんさか来てるよ」
パーティー? アル王子? そしてラナおばさん……どこかで聞いたことある名前とシチュエーションな気がするんだけど思い出せない。
「お嬢様の名前はなんていうんだい?」
「へっ!? 私? 私は……」
まずい。名前も答えられなかったら間違いなく怪しまれる。
その前にちっとも現状理解できないまま話だけ進んでるような……
どうしよう。城金真莉愛なわけないし……ああ、わからないっ!
「――!」
焦って無意識に掴んだドレスの一部分に、少し重みを感じる箇所を見つけた。
まさかと思い手を伸ばすと、隠すように作られたポケットの中から出て来たのはドレスに負けないくらい高そうなハンカチ。
そこには刺繍で、Maria.Hainesと書かれていた。