悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
****



 あのまましばらく抱き寄せられた後、私達は梯子を降りてアルのお気に入りの場所である小部屋を後にした。

「マリアの言っていたこと、僕もちょっとだけわかる気がするんだ」

 梯子を降り終わってすぐ、アルがそんなことを言い出す。

「時々自分がわからなくなって――王子としての未来を考えて本当の自分が出せない時がある。前少し似たようなことを話したけど、アルじゃなくて王子でいなくてはならない時、きっと僕も仮面を着けている瞬間があったと思うんだ」

 他人から期待される位置にいる人は、みんな私と同じようなことを経験してきたのか。
 アル程立場がある人間だと、仮面が当たり前過ぎて悩む前にうまく仮面を着けたり外したりできてそうだ。私もそれくらい器用だったらよかったのに。

「だから約束しようマリア。僕達はお互いの前ではいついかなる時も仮面を着けないってこと。もちろん普段からずっと素でいられることが一番だけど、そうもいかない時があるかもしれないだろ?」
「私はないけど、アルはあるかもしれないわね、なんてったって王子だもの。いずれ王になってもずっとこんな能天気変人のままじゃ先が思いやられるわ」
「それはただの悪口だ。君だって僕と結婚したら、今みたいに暴走できない場面がたくさんあると思うよ。あ、だから仮面を着ける時も一緒にしよう。そしたら共犯だ」
「よくわからないし楽しそうにしてるけど、時間は大丈夫なの? もうパーティー始まってるんじゃない?」

 人を勝手に共犯者にして喜んでいるアルにそう言うと、アルは着けていた腕時計を見て固まった。

「――忘れてた。もうとっくに始まってる」

 やっぱり能天気は間違ってなかったようだ。

< 80 / 118 >

この作品をシェア

pagetop