悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「馬鹿。主役がいないパーティーなんて意味ないじゃない。今頃ハロルドが死力を尽くしてアルを捜してるでしょうね」
「安易に想像がつくよ……生きて帰れるかな。マリアも急いで準備して、また後で話そう」
「私は今日はやめておく。今日はもう十分、貴方と意味ある時間を過ごせた。――それに一緒にいない私が後から現れたら周りから怪しまれるじゃない。私はずっと部屋で寝てたことにするわ」
「……わかった。僕もこのままずっとマリアといたいけど、まだ気持ちだけじゃどうにもならない。もっと偉くならなきゃな。――じゃあ」
優しいアルは自分の為にパーティーを開いてくれた王や城の関係者、集まってくれた令嬢達の行為を無下にはできないのだろう。
でもそれでいい。私はアルのそういうところが気に入っている。
先に物置部屋から出ようとするアルを私は埃をかぶった棚の隣に立って見送る。
そしてこっちを見ていたアルに背中を向けられた瞬間、私の身体は勝手に動き出していた。
アルの腕を引っ張ると、驚いたアルの表情が私の瞳に映る。
私はそのまま、昨日されたみたいにアルの唇を自分の唇で塞いだ。
それは状況を把握できない間に終わってしまうくらい、短い時間だったけれど。
「……昨日の、仕返し」
唇を離し、上目遣いで言う。
自分でもびっくりするくらい衝動的にとった行動を、私はお茶目な悪戯として誤魔化そうと思った。
「アルの言った通り、近い未来ってのは本当にすぐそこだったみた――んっ!」
言い切る前に、今度はアルによって私の唇が塞がれた。
誤魔化すことを許さないと言っているように、息をすることも許してくれない。