悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「マリア、今日は遅いんですわね」
「どうして昨日パーティー来なかったのぉ~っ?」
予想的中。
絶対にこれを聞く為だけに二人が来たことは明白で、私は事前に用意していた返答をそのまま二人に伝える。
「昨日は具合悪くて部屋でずっと一人で休んでたの。だから見ての通り昨日着てた寝巻のままで髪もボサボサ。一刻も早く大浴場に行きたいところ」
私がアルと部屋を出て行ったことは私達二人しか知らない。戻ってからは一度も出ていないし勘のいいジェナも反論してこない筈――と思いジェナを見ると、ジェナは少し不思議そうな顔をしていた。
「……じゃあマリア、貴女昨日リリーと会ってなかったんですの?」
「リリー? 何の話?」
「お姉様とパーティー前にマリアを待ってたけど来ないからマリアの部屋の方まで行ったの! そしたらリリーがマリアの部屋の近くをうろついてたんだぁ~っ」
「それを見ててっきり私とジェマは裏で二人が手を組んでいるのかと思ったんですの。……反応的に本当に身に覚えがないようだし、こちらの早とちりみたいですわね」
裏で手を組んでいるってのは間違いじゃないけど――リリーが私の部屋に来ていた? 私に何か用があったのか、それとも偶然近くにいただけ……?
私はその時間部屋にいなかったから、リリーが訪ねて来たとしても気づけなかった。
――お風呂に入ったらまずはリリーに会いに行こう。向こうも私に用事があったのかもしれないし……そしてちゃんと言わなきゃ。
リリーにも、ジェナジェマにも、アルを好きになったことを……ちゃんと。
今じゃなくても、今日じゃなくても、いずれ絶対言わないと……
「マリア・ヘインズ。話がある」
考え込んでいる間にジェナジェマを後ろに退け、私の前には怖い顔をしたハロルドが立っていた。
いつも怖い顔をしているが、今日はとびきり怖くて冷たい目をしている。
ハロルドの表情を見て、私はすぐに不穏な空気を感じ取った。