悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「こっちに来い」
「ちょ、ちょっと!」
ハロルドが私を連れて行く様は、昨日アルが手を引いてくれた時のような胸が躍る感じとは全然違う。
掴まれた腕は痛く、一歩足を動かすのが遅れると引きずられそうな力強さ――まるで自分が罪人になったみたいだ。
ただならぬ雰囲気を感じながらも、好奇心からかジェナジジェマや他の令嬢達も私の後を追ってくる――が、私が広間に入ると他の誰一人中に入れずハロルドはドアを閉め切った。
「ハロルド、一体なんなの!?」
「これはどういうことだ」
「何が……っ!」
私の目の前に、ハロルドが手にしてる筈のないものが翳された。
「どうして、それを」
それは、“マリア”が両親に渡された手紙だった。
頭がパニックになる。私の部屋にあったものがどうしてここに? いつから? 読み直してから机の上に置いて外には持ち出さなかった。昨日部屋に戻ってからあった? 思い出せない。昨日は胸がいっぱいで、手紙のことなんて気にしてもなかった。
「これが本当なら、お前は最初から政略結婚を目的に王子に近づいたといえる」
「…………それは」
「こんな時代だ。そういった事情は仕方ないだろう。でも知ってしまったからには放っておけない。王子が政略結婚≪それ≫を望んでいないからだ」