悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
ハロルドの後ろには、手紙を読んだばかりなのか封筒が置かれたテーブル前の椅子で項垂れるアル――その横にはノエルと、少し離れた部屋の隅にはこの場にいるには少し違和感のあるリリーとロイの姿もあった。
「お前! 俺にあんな偉そうなこと言ってふざけんな! 見損なったぞ! 高飛車で変な奴と思ってたけど、根っこは良い奴なんじゃないかってどっかで思ってた……そのキャラも王子の気を引く為の演技だったんだろ!? 金の為に近づくなんて……」
ノエルの悲痛の叫びは銃弾のように私をめがけ飛んでくる。
「この件に関してお前に言い分があるなら聞いてやると王子は言っている。言い訳するなら今の内だ。どうだ? 決定的証拠を前に言いたいことはあるか?」
「――マリア、本当のことを言ってくれ。僕は君の言うことを信じる」
ハロルドに睨まれて、初めて全身凍りつきそうな程の恐怖を感じて手が震える。
懇願するような顔をするアルを見て、今度は唇が震え出し隠すように顔を伏せた。
ふと部屋の隅からの視線を感じ目線だけを動かすと、不安げな顔をするリリーが微かに見える。
ほんの少しだけ顔を上げリリーと視線を交わすと、妙に心が落ち着きを取り戻してきた。
それとは正反対に、リリーが私を見つめる表情はどんどん暗くなっていく。
――リリーにあんな顔をさせているのは、きっと私のせいだ。
守るなんて大口叩いて、私は友達の大切な人を奪おうとしていた。
これは、幸せになろうなんてした悪役への罰なんだ。
「……そうよ。書いてある通り。全てはヘインズ家と私自身の為」
「! マリアっ」
気が動転したのか、アルがたまらず立ち上がる。
私はゆっくりと顔を上げると、冷たくアルに言い放った。
「王子のことなんて――全然好きじゃなかったわ」
捨てて、踏みつけて、二度と拾わないつもりだった。
『だから約束しようマリア。僕達はお互いの前ではいついかなる時も仮面を着けないってこと』
アル、ごめんね。
私、約束守れそうにないや。