悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
それぞれの気持ち
「今すぐ出て行け! お前が城にいる必要は今度こそ本当にない!」
怒りに満ちたハロルドが、感情を露わにし怒声を広間中に響かせる。
「いいか? 今日中に出ていかなければ――」
「待ってハロルド!」
今まで部屋の隅で私より怯えた顔をして小さくなっていたリリーが、ハロルドを制止した。
「手紙読んだなら、わかるでしょう……マリアは家に帰ったところでどうなるかわからない……いろいろと準備が必要な筈……心だって。せめて今日だけは、マリアをお城に泊めてあげて。私がちゃんとマリアを見てるから、お願い」
「リリー……」
内容を知ってるということは、マリアも読んだのね。あの手紙を。
ハロルドはリリーからの頼まれごとに弱いのか、はたまた僅かに私への同情があったのか――それはないか。
「明日中に必ず出て行け。二度と大広間には入って来るな。ここからも今すぐ出て行くんだな。……そしてリリー様。こいつはリリー様に危害を加える恐れがありますので、今後決して近寄らないで下さい。ロイ、きちんとリリー様を見張っておけ」
「はい。もちろんです」
ロイはハロルドに頭を下げ、リリーを連れて一足先に出て行った。
リリーは何度も私の方を振り返るが、もう言葉すら交わす時間を与えてくれない。
あーあ……リリーとのお別れがこんな寂しい形になるなんて。
「出て行けと言っている」
立ち尽くしている私を威圧するハロルド。アルを傷つけた私のことが、ハロルドの目にはもう敵としか映らないんだろうか。
くるりと背を向けて、私は顔色一つ変えずに歩き出した。
喜怒哀楽何もない、無の表情を張り付けたまま。
「君の目的通りだよ――マリア」
か細いアルの声が聞こえ、私の足が止まる。
「僕の心は、めちゃくちゃだ」
「…………」
私は振り返らずに、そのまま大広間を出て行った。