悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
出た瞬間から、ギャラリーが私を見てヒソヒソ話をしている。
一言も話したこともない令嬢達が、揃いも揃って私の噂話をしている。きっと大広間での会話が聞こえていたのか、どこかで勝手に話が回っていたのどちらかだ。
慣れている。自分以外の噂話は女の好物。他人の不幸は蜜の味。
陰口を言われたところで、私は傷ついたりしない。
令嬢達の中に、ジェナジェマの姿を見つけた。
しっかりと目が合ったのにも関わらず二人はサッと私から目を逸らし、私に近寄ろうともしない。
それは、二人が私の取り巻きを卒業した瞬間と言える。
……当たり前だ。手紙がバレて私の城中の評判は地に落ちている。そんな奴と一緒にいてメリットは何一つない。
どんなに楽しい会話をし一緒に時を過ごしたところで、私とジェナジェマの関係は“友達”にはなり得なかった。
ただ、それだけのこと。
部屋に戻りバタンと大きな音を鳴らしドアを閉めた瞬間、私はその場に崩れ落ちるようにして泣いた。
ピンと張った糸がプツリと切れたように、一気に感情が溢れ出る。
人前では決して見せない自分の弱さを、この一人きりになった部屋で出し切るように。
せっかく自分らしく生きると決めたのに、私はこの世界でも前と同じ様に――いや、真莉愛の方がまだマシだった。
あの頃は大嫌いだった男がいつも味方してくれた。でも今この世界で私の味方をする人間はどこにもいない。
「アルっ……アルっ……!」
望んでいたのに。あんなにも。
嫌われることを。
鬱陶しいと、関わりたくないと。
自分一番そう思ってたじゃない。
これでよかった。念願の嫌われ人生。全員に嫌われて、よくやったじゃないマリア。
「う……っく……」
止まらない涙を拭うこともせず、私は床を濡らし続ける。
そしてやっと落ち着きを取り戻した頃、私の頭に重大な疑問が浮かんだ。
――そもそも、誰があの手紙を?