悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「そうよ! グズグズしてる時間なんてない! 元気出せマリア!」
たくさん泣いたなら、後から同じ分だけ笑えばいい。
明日には城から出ないといけない厳しい現実を受け入れる為、私は散らばった服をまとめバッグに自分の荷物を詰め始めた。
パーティーが始まる時間は、部屋の出入りが激しくなる。
始まってからしばらく経って部屋から出れば、大広間に人が集中するから誰にも会わずにおばさんの花畑まで行ける。
『二度と大広間に入って来るな』というハロルドの言葉は、つまりパーティーに参加するなということで外に出るなとは言われていない。
私は初めて目を覚ました時に着ていたドレスを手に取り、今日は精一杯自分を着飾ることにした。
私がヘインズ家のご令嬢様でいられるのも、恐らく今日が最後。
豪華なドレスを着ることも、宝石を身に着けることもなくなって、荷物の半分を占めている衣類のほとんどは売りに出してお金にしなければならなくなる。
だったらせめて、お城で過ごす最後の日くらい魔法のかかったシンデレラでいたいじゃない。
こうしてパーティーに参加しないとは思えない程ばっちりキメた私は、パーティー開始一時間後にこっそりと部屋を出てラナおばさんの元へ向かった。
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ラナおばさんの花畑に向かう途中、テラスの向こう側にある大広間の楽しそうな声が聞こえ私はおもわず立ち止まった。
今、アルは間違いなくあそこにいる。
……一目見るくらいなら、許されるかしら。
私は忍び足で大広間に近づき、開かれていた窓からこっそり中を覗いた。
そこにはリリーの隣で楽しそうに笑うアルがいて、私の心臓はドクンと大きく脈打つ。
見たくないものを見てしまった気分になり、私はすぐに大広間から離れた。
アルは、きっとこのままリリーと結婚するんだ。
私から見える今の二人はあまりにもお似合い過ぎて、お茶会の時にはちっとも現れなかった嫉妬という感情が今更顔を出していた。