悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……マリア・ヘインズよ」
「ヘインズ家のご令嬢様か! またすごいお嬢様が来たもんだ」
「マリアでいいわよ。畏まった態度や言葉遣いもいらないわ」
「……変わってる子だねマリア。じゃあ二人でいる時間だけはお言葉に甘えさせてもらうよ」
ヘインズ家の令嬢――ヘインズ家がまずわからないけど、おばさんの反応的にそこそこ名家なのかしら。
「にしても、マリアはいつここに? あたしはずっと近くにいたんだけど、あんたが入って来たことにちっとも気づかなかったよ」
「それは……私もわからないわ。あまりにも綺麗だから、誘われるようにいつの間にかここに来てたのよ。多分」
「嬉しいこと言ってくれる。大事に守ってる花畑だからねぇ……」
おばさんは嬉しそうに笑いながら、自分が育てているたくさんの花達を見つめる。
「おばさんが一人で?」
「今はね。昔は旦那と一緒だったんだ。もう死んじまったけど」
「……そう」
「さっき少しだけどここにも花が咲いてるって言ったろ? きっちり管理してる花畑じゃなくて、それは野原に自然に咲く青い小さな花なんだ。旦那はその花が大好きでねぇ……大事に育ててる花より勝手に生えてくる花がいいなんて変わってるだろ」
「そう? 私も好きよ。そういうの」
自分だけで力強く生きてる感じがして――私も前までは周りに育てられて綺麗に咲かされた花だったけど、今度は自然に、何もされなくても自力で咲けるような花になりたい。