悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
おばさんにこんなこと言っても理解してもらえるわけないのに、私は自分の言うことを否定せず聞いてくれるおばさんに甘えてしまい、その後もずっと自分がアルの相手に選ばれる未来を否定し続けた。
ずっと自己否定を繰り返す私を見かねてか、おばさんはそっと私の手のひらの上に自分の手のひらを重ねる。
私を落ち着かせるように、手のひらから伝わるおばさんの熱が、私に「大丈夫だよ」と語りかけるようだった。
「マリア、今からもう一つ、マリアにだけ話したいことがあるんだけど……聞いてくれるかい?」
「……当たり前じゃない。どんな話?」
おばさんは目を瞑ってふぅーっと時間をかけゆっくり息を吐き出すと、目を開けてまっすぐ私を見た。
何かを覚悟したような、目をしていた。
「あたしねぇ……もう長くないんだよ」
「――え」
鈍器で頭を殴られたような感覚に襲われた。言葉の意味はわかっても、頭が追い付かない。
「ど、どこか悪いの? 治らないの? 嘘だよね、おばさん」
私は重ねられてたおばさんの手を両手で握り、祈るように問いかける。
「ずっと調子がよくなくてね……自分の身体のことだから、わかってしまうんだよ」
「そんなの今言われたって、信じられない……!」
最後にラナおばさんと楽しく笑って、明日から頑張るつもりだったのに。
こんな話を聞かされたらとても笑顔になんてなれない。ここに置いていく私の未練が増えるだけだ。
「どんなに大切な思い出も、思い出す人が誰もいなくなれば何にも残らない。……あたしがマリアに旦那と二人だけの思い出話をしたのは、きっと誰かに青い花の存在を覚えてて欲しかったんだ。そしたらそれは、マリアの思い出として生きていける」
「――っ」
「あたしはマリアに花の話をしてから身体がスッと軽くなったんだ。もうこの世界でやり残したことはない。残された時間を穏やかに生きていければいいんだよ。だからね――マリア」
おばさんは私から手を離し立ち上がると、今度はその手のひらで私の頭を撫でた。
「後悔だけはしちゃいけない」
おばさんの想いが、私の心の奥底に訴えかけてくる。
アルとは違う温かさを感じるおばさんの手のひらは――例えるなら、お母さん。
ラナおばさんは私にとって、理想のお母さんみたいな人だった。