悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「私、アルに会いに行ってくる」
「――はは! それでこそマリア。そんなおめかししてるのに男に見せないなんて宝の持ち腐れだよ」
おばさんがずっと隠していた自分の身体のことまで打ち明けたのは、私にここで後悔を残して欲しくなかったから。
そこまで背中を押してもらって動けないようなら、これから先だって後悔だらけの人生になる。
私、決めてたじゃない。マリアとして生きるからには絶対に死ぬ時後悔しない生き方をするって。
おばさんは、私にそれを思い出させてくれた。
泣くことはいつだってできる。今じゃなくたって。
「あ、待って。私パーティーに参加しちゃいけないんだった」
「えぇ!? 元も子もないじゃないの。パーティー以外で自ら王子に会いに行くのは難しいどころか無理だろうしねぇ」
覚悟を決めたものの、私には早速難関が待ち構えている現実。
今まで私がアルと二人で会えたのは、全部向こうから来てくれていたから。
簡単に自ら会いに行けていたら、他の令嬢だってあんなにピリピリしてなかっただろうし。
「もういいや。乗り込む。どうせ私は明日追い出される運命だし、だったら最後に本当にパーティーをめちゃくちゃにしてやるわ」
「そんな大胆なことしたらすぐ掴まって広間から追い出されるのがオチじゃないか」
「いいの。だってアルに一目会えればそれでいいもの」
想いを伝えるかなんて、その時にならないとわからない。
アルに素直な自分の気持ちを伝えてしまっても後悔するかもしれないし、伝えなくても後悔するかもしれない。
私はまだ、それがわからない。
だからアルに次会えた時、最初にこみ上げてきた感情をそのままぶつけたい。……いわばぶっつけ本番ってやつだ。意味はちょっと違うけど。
「……ねえおばさん。どんな形でもアルに会えたら、いやもし失敗しても、今日はここで一緒に寝ていい?」
花畑の一番近くにあるおばさんの部屋。
自分の部屋より、ここでおばさんと寝る方がずっといい夢が見られそうだし。