悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「マリアは意外に可愛いお願いをする子だね。新しいハーブティー用意して待ってるよ」
「やった! ありがとう! 夜はおばさんと旦那さんの話いーっぱい聞いちゃうんだから! じゃあ私行ってくる!」
「あ! マリア! 今日の夜は珍しく真冬のように冷え込むみたいだからそんな格好じゃ風邪引いちまうよ。あたしの上着を――」
「大丈夫だって! 城に行ってここに戻ってくるだけだから! ちょっとの距離くらいへっちゃらよ」
私は上着を取りに行こうとしていたおばさんにそう言うと、薄着のドレス姿のまま外に出て大広間へと向かった。
確かにさっきより随分と気温が落ちて寒い気もするが、これくらいの移動距離なら平気そうだ。
さっきのようにテラスを抜け窓から入れば警備も薄そうだし上手く侵入できそうだと思いテラスの方へ行くと、見慣れた二つの人影が見えた。
「……ジェナ!? ジェマ!?」
パーティー中の筈なのにどうしてこんなところに、と問う前に二人は勢いよく私に抱き着いて来る。
「マリアァ~! さっきは助けられなくてごめんねぇ~っ! ジェマ、マリアとあのままお別れなんてどうしても嫌で」
「私もですわマリア……貴女が心配で、とてもパーティーを楽しむ気分になんてならず……ああ、会えてよかった」
「……二人共」
ジェナジェマには昼の騒動ですっかり愛想を尽かされたと思っていた。
私のことなんて、使えなくなった駒と一緒だと――だから二人がまた私に会いに来てくれたことは驚きを上回るくらい、純粋に嬉しさを感じていた。
「私こそ、ごめん。二人にいろいろ迷惑かけたし……嘘も吐いてた」
「もういいのよマリア。何も言わないで。貴女の苦しみはわかっていますわ」
ジェナは私がアルを好きになってしまったことを感じ取ったのか、いつものように追求することなく私に慰めの言葉をかける。
「ねぇねぇマリア、今から少しだけお別れ会しない? 三人で! 私達、最初からずぅ~っと一緒に頑張った仲間でしょ~? マリアと最後に思い出作って、明日は笑顔でお別れしたいもん……」
「ジェマ……ありがと。でも私、今は行かなきゃいけないとこが」
「マリア。ジェマはマリアの為に一生懸命探したのですわ。周りに見つからないで、三人だけでお別れ会ができる場所を……」
ジェナが私の両肩を背後からそっと掴み耳元で言う。
ジェマの方を見ると、私の腰をがっつり掴みうるうるとした瞳で私を見上げる。
――に、逃げられない。
私の為にアルとハロルド大好きな二人がパーティーを抜けてまで一緒にいようと言ってくれる想いに、私は少しでいいから応えたいと思ってしまった。