悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「お別れ会って、つまり何をするつもりなの?」
「すぐ終わるよぉ~っ! 感謝の気持ちをじっくりマリアに伝えて、大好きのハグとキスをするの!」
「マリアは今城の人間に警戒されてますわ。だからあまり姿を見られるのは好ましくないと思って、あまり人目のつかない場所への移動を提案してるだけですわよ。私達がマリアの為を想ってのこと――」
ジェナの言うことは間違っていない。私も私のせいでこれ以上二人に迷惑をかけるのは好ましくないし……私も取り巻きとして私についてきてくれた二人と仲良く終われるなら感謝を伝えて終わりたい。
パーティーはまだまだ続くだろう。少しの寄り道が許されるくらいの時間はある筈だ。
「よし、じゃあ私をそこへ案内して」
「ふふ。さすがマリアですわ」
「じゃあジェマについてきてぇ~っ!」
楽しそうなジェマが私の手を引っ張り、後ろからジェマが背中を押す。
最初に出逢った頃のように三人ではしゃぎ、二人と“友達”にはなれなかったという私の考えは浅はかだったかもしれないという思いを抱き始めた頃、先頭を歩いていたジェマが足を止めた。
「着いたよ。マリア。ジェマね、一生懸命探したの」
案内された先は、木が生い茂る中にぽつりと佇むボロボロの小屋。
城の敷地内の中でも端っこだろうか。寧ろここは本当に城の敷地内なのかという疑問も湧いてくる。
「ずーっと使われてない、ただの物置小屋ですわ。さぁ、中に入りなさい! マリア!」
「きゃあっ!」
ジェマがドアを開けた瞬間、背後にいたジェナが私の身体を小屋の中へと突き飛ばした。
埃や錆――いろんなものが混ざり合った嫌な臭いが鼻をつく。
灯りは外の光だけ――しかしすぐにドアを閉められ、私の視界は真っ暗になった。
「……何の真似? 冗談よね? ふざけてるだけなら、早く開け――」
「ふざけてるのわ貴女ですわ。マリア」
淡々としたジェナの声が聞こえる。
表情こそ見えないが、感情がないような物言いに怒りの感情が最大に現れているのが声だけてわかった。