悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「――リア!」

 幻聴?

「マリア!」

 幻覚?

「マリア、無事か! マリア!」

 真っ暗な視界に光が差し込む。私は突然の眩しさに目を細め、僅かな視界で確かにアルの姿を確認した。

「……ア、ル?」
「マリア! よかった。意識はある……でも体温が下がりきってて危ない。待ってろ」

 アルは自分のいつかの水遊びの時みたいに自分の上着を脱ぐと私に被せ、全身を包むように上着ごと私を抱きしめる。
 
「……あったかい」
「ここから城までは距離がある。マリア、僕が城までマリアを運んで――」
「大丈夫、だから。もうちょっと、ここで一緒にいさせて?」
「マリア、でも」
「城に戻ったら二人になれない。そうなったら、私は」

 きっともう、貴方に好きと言えない。

「――わかった。でも様子がおかしくなったらすぐに運び出す。それまでは僕が、ずっとこうしてマリアを抱き締める」

 夢みたいだ。もしかして、私夢を見てるのかな?
 またこうやってアルに触れてもらえるなんて。顔を上げたらすぐそこに、私に笑いかける貴方がいるなんて。
 きっと、これは夢――

 ずっとこの夢が続きますようにと祈りながら、私はそのまま目を閉じた。


****


 目が覚めると、見知らぬ天井が見える。
 ふかふかのベッド、ふわふわの枕。

 やたらと豪華なシャンデリアをぼーっと見つめていると――

「気が付いた?」

 ずいっとアルの顔が私の視界にフレームインし、私はびっくりして起き上がる。

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