悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「ア、アルっ!? ていうか、ここは」
「僕の部屋だよ」
「アルの部屋!?」
どうりでこんな寝心地のいいベッドと煌びやかなシャンデリアがある筈だ。
広く綺麗に片付けられたアルの部屋を見渡していると、アルがベッドに腰かけ私の前髪をかき上げる。
「……うん。だいぶ顔色がよくなった。マリアってばあのまま気失っちゃって、僕の心臓が止まりかけたよ」
アルが助けに来てくれたのは、どうやら夢ではなかったみたいだ。
「他の人間は一人もいないし、僕がいいと言うまで絶対に入るなと言ってる。だからここには二人だけ……安心してくれ」
アルの部屋に二人きりとなると、逆に安心できないような……
「――マリア、何があったか教えてくれ」
「……それは」
「言いたくないのか?」
ここでジェナジェマの名前を出し、全てを話すことは簡単だ。
でも、そんなことしたら二人はどうなる?
きっと城から追い出されるだけでは済まない。
「いいかマリア。君は死ぬところだったんだ。自分を殺そうとした人物がもしいたとしたら――」
「私だよ」
「……何言って」
「もう何もかも嫌になって、死のうと思ったの。あの小屋には自分で入った。それだけよ」
どうして、二人を庇ったのかは自分でもわからない。
ただ私はあんな目に遭って尚、二人のことを嫌いにはなれなかった。
もしあのまま死んでいたら化けて出てやるとこだけど、私は今こうして生きている。
だったらもう、それだけで十分だ。
「……マリアがそう言うなら、僕はマリアの想いを尊重するよ」
そう言いながら、アルの表情は全く納得してはいなかったけれど。