半神
 
自分の創造主たる僕に、この男は、何を言っているんだろう。
 
僕は黙して彼の前に歩み寄り、男が汚い言葉を吐き散らす暇さえ与えずに、男が存在するのに必要な器官の動きを両の手で握りつぶすように締めあげる。
 
僕が自分に何をしようとしているのか、プロットを読み取るようには理解出来なかったらしい。

小柄で貧弱な男は、大した抵抗もせぬままに動かぬ肉の塊と化した。
 
 
 
自分の部屋へ帰った僕の心は満ち足りた開放感に溢れていた。
 
もう誰も僕の作品を盗むことは出来ない。
僕の作り出す世界は、僕だけのものだ。
 
僕は意気揚々とPCを立ち上げ、こみ上げる笑みを必死で押さえながらワードパッドを立ち上げる。
 
 
――開かれたワードパッドは、いつまでも真っ白のままだった。
 
僕は一文字すら書くことも出来ず、モニター画面を凝視続ける。
 
 
――僕には、彼が持ち得ていた文章を作り上げる能力が欠如していた。
 
――彼には物語を構築する能力が欠けていた。

 
彼は、僕の半身だったのだ。
僕は、彼の半身だったのだ。
 
 
半身をなくした僕はどうすればいい?

 
 
夕日の差し込む窓を開け、僕はベランダへと吸い寄せられる。
地上より遥か高く、6階の階上を渡る風が髪を乱す。
 
半身をなくした僕には、強すぎる、風だ。
 
 
ぐらり、
 
僕の世界が傾く音がした。

 



--終--


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