Bon anniversaire
一夜明け、今日。昨日は「お腹が痛い」という理由で休んだので、行かなければならない。

制服を着る心が重く、麗愛は何度もため息をつく。気を抜けば伯と女子生徒のことを思い出して泣きそうになった。

麗愛は、伯を避けることにした。



伯は、麗愛が避けるたびに不思議そうな目を向ける。麗愛の中で今までの日々が蘇って胸が痛むが、嘘の愛でつながっている関係には耐えられない。

流暢なフランス語は、もう耳元で聞こえてこない。それが寂しく感じるが、麗愛は仕方ないと感じていた。

プレゼントのコーヒーも買わないまま、七月十日がやってきた。毎年ドキドキしていた伯の誕生日だ。

伯は、女子生徒に囲まれてプレゼントをもらっていた。きっとあの中に本命の子がいるはずだ。

「……先輩、幸せになってください。Au revoir(さよなら)」

物陰から困ったように笑う伯を見つめ、切ない胸を押さえながら麗愛は呟いた。

二人で帰っていた道を、一人で歩く。今までは伯を待っていたが、もう待つ必要はない。
< 12 / 17 >

この作品をシェア

pagetop