Bon anniversaire
しばらく走ると、街を見渡せる展望台に着いた。何も考えずに走ってきた麗愛は、街の美しさに思わず見とれてしまう。

まるでおもちゃ箱の中を覗いているように、家々が小さい。小さくなった家々は、とてもかわいらしく見える。

「夕焼けがあれば、もっときれいですよね」

ポツリと麗愛は呟いた。

「まさか聞かれてたとはなぁ…」

伯は麗愛の横顔を見つめながら言った。麗愛の胸がまた痛む。ここで別れを告げられるのだろうか。そんな恐怖に体が少し震えた。

「なあ、麗愛」

伯の声が真剣になる。麗愛の肩がびくりと大きく動く。

「こっち向け」

伯の言葉には抗えない。麗愛はゆっくりと伯の方を見つめる。伯の目は、いつも以上に真剣だ。

「お前は覚えてないかもしれないけど、俺はフランスにいる頃、ずっとお前のことを考えてた」

伯の右手が制服のズボンの中にそっと入ったのを、麗愛は見た。

「いつも俺のことを楽しませてくれて、お前がいたから日本に帰ってくるまでずっと、フランスで頑張れた…」

伯がそっと麗愛のおでこに口付ける。久しぶりのキスだ。甘く、優しいキスーーー。
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